性同一性障害とは、生まれたときに割り当てられた身体の性と、自分が心の中で感じている性が一致せず、その状態が長く続き、日常生活に強い苦痛や支障をもたらしている状態を指します。違和感そのものよりも、「その違和感を抱えたまま生活を続けなければならないこと」がつらさの中心になります。学校や職場での性別の扱い、家族からの期待、周囲の何気ない言葉によって、不安や抑うつ、不眠などの心身の不調が生じることもあります。性の感じ方には個人差があり、違和感の強さや表れ方も人それぞれです。
性同一性障害の特徴は、心の性・身体の性・社会的に求められる性別の役割が一致しないことで、持続的な苦痛を感じる点にあります。たとえば、名前や呼ばれ方、制服や服装、性別欄のある書類などに強い違和感を覚えることがあります。また、自分の身体を鏡で見ることや、人から見られることがつらくなる場合もあります。重要なのは、恋愛の対象(性的指向)と、自分をどの性だと感じるか(性自認)は別であるという点です。性のあり方は連続的で、迷いや揺れを含むことも自然なことです。
性同一性障害の原因は、現在の医学でも一つに特定されていません。遺伝子やホルモンの働きなど、生物学的な要因が関係している可能性が指摘されていますが、育て方や本人の性格によって生じるものではありません。人の性は、身体的な性、心理的な性、社会的な性役割など、複数の要素が組み合わさって成り立っています。そのため、身体の性とは異なる性の感覚を持つこと自体は珍しいことではありません。近年の国際的な診断基準では、精神疾患ではなく「性の健康に関わる状態」として整理されています。
性同一性障害への対応は、「すぐに性別をどうするか決めること」ではありません。まずは、自分がどのような違和感やつらさを感じているのかを、安全な環境で言葉にすることが大切です。メンタルクリニックでは、医師が話を丁寧に聞き、気持ちを整理する手助けをします。迷っている段階や、はっきり説明できない状態で受診しても問題ありません。受診は「結論を出す場」ではなく、「考える時間を確保する場」です。必要に応じて、今後の選択肢を一緒に整理していきます。
性同一性障害は、性の感じ方と社会の枠組みとの間で生じる持続的な生きづらさの状態です。それは本人の努力不足や性格の問題ではありません。性のあり方には多様性があり、迷いや揺れを含めて尊重されるものです。「このままでよいのか分からない」「誰かに安心して話したい」と感じたときは、それが相談のタイミングです。当院は判断を迫る場所ではなく、安心して自分の気持ちを整理できる場所です。一人で抱え込まず、わたしたちとともに自分らしい生き方を考えていきましょう。